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がんは、予防が有効な病気です。がんの発生を未然に防ぐためのがん予防対策が効果的に実施されれば、がんの発生率とそれに続く死亡率が確実に下がるものと予想されます。これまでの研究から、がんの原因の多くは、たばこや飲酒、食事などの日常の生活習慣に関わるものだとわかっています。1996年にハーバード大学のがん予防センターから発表された米国人のがん死亡の原因では、喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、飲酒(3%)の合計で全体の68%になりました。これらのがん死亡は、生活習慣の見直しによって予防できたものと考えられます。 生活習慣や環境は国によって違い、がんの原因の割合も国によって異なります。しかし、生活習慣の改善で多くのがんが予防できることについては、日本でも米国と同様です。社会全体の対策として、そして、各個人の行動として、偏りのない、科学的根拠に基づくがん予防の見極めが重要な課題となります。 がん予防の情報は日々さまざまな場所から発信されていますので、情報の質を見極めなくてはなりません。情報源として、学会や論文などによる研究発表が引用されることがありますが、われわれの身近ながんリスクとして、その情報を適用するためには、研究によりさまざまなレベルのものがあることを知る必要があります。科学的に評価されたがんリスクと言っても、実際にはあやふやなものから確かなものまでが混在しているのです。それを見分ける客観的な目安のひとつが、研究方法です。どのように研究が行われたかによって、科学的根拠の信頼度を知ることができるのです。 基本的に、ヒトを対象として行われる疫学研究で、研究対象や方法にさまざまな偏りが入り込む余地がより少なく、また研究結果における偶然性がより少なくなるように工夫された方法ほど、信頼度が高いと位置付けられます(表1)。 例:乳がん患者の血縁者などのハイリスク・グループに対し、タモキシフェン投与グループとプラセボ(偽薬)投与グループの間で、乳がんリスクを比較する研究 例:ある地域住民の特定の年齢層に対する食事調査を行い、食塩摂取量の多いグループと少ないグループの間で、調査後10年間の胃がんリスクを比較する研究 例:胃がん患者グループと、年齢や性別などを同じ条件に揃えた胃がんでない人のグループの間で、過去の食塩摂取量を調査し、食事内容による胃がんリスクを比較する研究 普段から耳にする機会が多いのが、誰かの経験談や主観的な意見です。このタイプの話題は具体的で説得力があるようですが、実際には何の科学的根拠もありません。次に、培養細胞やマウスを使って行われる実験結果が根拠として示される場合も多いのですが、その結果がそのままヒトにもあてはまるわけではないと考える冷静さが必要です。 ヒトを対象に行われた研究のうち、患者対照研究には、結果が早くわかるという利点があります。一方で、適切な対照の設定が難しく、また、要因について過去に遡って調べなければいけないので、さまざまな偏りが入り込む余地が多く、信頼性が必ずしも高くない方法です。このタイプの研究結果が根拠として示された場合には、まだ最終的な結論ではなく、問題提起がされた段階だととらえるべきでしょう。コホート研究は、大規模・長期に及ぶ調査が必要ですが、要因について調査した後に、がんの発生を把握するという手法であるため、偏りが入りにくい比較的信頼性の高い方法です。しかしながら、ある要因とがん発生との間にみられた関連が、真に関連する第三の要因(交絡要因)による見かけ上のものである可能性を否定出来ないという限界があります。 最も理想的には、無作為割付による介入研究の結果を待たなくてはなりません。ある要因を無作為に割付けることにより、偏りや他の要因も均等になることが期待出来、その要因による効果を純粋に検証することが出来ます。多くのボランティアの参加を必要とし、大変な費用と人手のかかる方法ですので、利用出来る情報は限られているのが現状です。例えば、乳がんのリスクが高い欧米の女性で、タモキシフェンという抗がん剤に乳がん予防効果がある(同時に、子宮体がんのリスクが上がる)ことや、喫煙者などの肺がんリスクが高い欧米の男性では、高用量のβ―カロテンに肺がん予防効果がなく、かえってリスクが上がってしまうことなどが、このタイプの研究から示されています。 信頼のおける方法で行われた研究では、ある要因によって特定のがんリスクは何倍になるのかという具体的な結論が述べられ、それが偶然の結果ではないという統計学的な根拠も数値で示されます。ただし、複数の信頼のおける研究で同様の結果が示されるまでは、また、動物や試験管内での実験などによりそのメカニズムに対する裏づけを得られない限りは、予防法として広く普及するには早急であると考えられます。 がん発生と生活習慣の関わりでは、どのリスク要因が、どのがんに対し、どれ位の可能性で関与しているか評価が行われます。世界保健機関(WHO)や国際がん研究機構(IARC)などによって組織された委員会では、世界各国からがん予防研究に携わる専門家が召集され、これまでに発表された科学論文に基づいて、がん予防に本当に有効であるか否かについて、討議されます。それらの委員会によって2003年に食事などの生活習慣に関するリスク要因や予防要因についての評価結果が報告されました。その概要は、表2のとおりです。 喫煙は、肺がんだけではなく、他の多くの部位のがん(口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、子宮頸部、骨髄性白血病)のリスクを確実に上げます。また、他人のたばこの煙(環境たばこ煙、あるいは、受動喫煙)も、肺がんのリスクを上げるのは確実とされています。喫煙以外の要因とがんとの関連で、確実だといえるのは、運動不足(結腸)、肥満(食道<腺がん>、結腸、直腸、乳房<閉経後>、子宮体部、腎臓)、飲酒(口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房)、アフラトキシン(肝臓)、中国式塩蔵魚(鼻咽頭)、また、可能性が高いと思われる関連は、野菜・果物(口腔、食道、胃、結腸、直腸)、運動(乳房)、貯蔵肉(結腸、直腸)、塩蔵品および食塩(胃)、熱い飲食物(口腔、咽頭、食道)などであると報告されています。 WHOは、これらの精度が高い科学的証拠に基づいて、がん予防のための食事指針を提案しています。成人期での体重維持、定期的な運動の継続、飲酒はしない、塩蔵食品・塩分の摂取は適度に、アフラトキシンの摂取を最小限に、野菜・果物を少なくとも一日400gとる、ソーセージやサラミなどの保存肉の摂取は適度に、飲食物を熱い状態でとらない、以上の8項目を挙げています。アフラトキシン(カビ毒の一種で、保存状態の悪いナッツなどに混入していることがある)や保存肉の制限は、日本人一般の食事では、がんのリスクを上げるまでの量を摂取する可能性は低いので、特段の注意を払う必要はないかもしれません。また、肥満のみならず痩せ過ぎもがんのリスクを上げることが日本人を対象とした大規模コホート研究で示されています。 禁煙とWHO食事指針に基づく日本人の実状を加味した食習慣改善が、現段階では、最も実行する価値のあるがん予防法と言えるでしょう。表3に、日本人にとって適切な現状のがん予防指針を示します。この指針の内容は、今後、新しい研究の成果が積み重なることにより、修正される可能性があります。禁煙は、最も確実ながん予防法です。喫煙者がたばこを止めれば、がんになる確率を三分の二にまで減らすことができるものと考えられます。塩蔵食品・塩分の摂取を制限することは、日本人で最も多い胃がん予防に有効であるのみならず、高血圧を予防し循環器疾患のリスクの減少にもつながるでしょう。野菜・果物をたくさんとることも、多くの部位のがんの予防や循環器疾患の予防に有効なものとなるでしょう。定期的な運動も日本人で増えている大腸がんや乳がん予防に役立つでしょう。 また、日本人のがん死亡の1割を占める肝臓がんの予防については、生活習慣以前に、B型あるいはC型肝炎ウイルスに感染しないことが最も重要です。まず地域の保健所や医療機関で肝炎ウイルスの検査を受け、陽性であれば肝臓の専門医にご相談ください。厚生労働省のホーム・ページにおいて、B型肝炎ウイルス http://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/hepatitis-b/ やC型肝炎ウイルスhttp://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/hepatitis-c/についての情報が参照出来ます。 がん予防法を有効に利用するには、予備知識がいくつか必要です。まず、食品や栄養素の摂取量と発がんリスクとの関係は、必ずしも単純には考えられないことがわかっています。量が増えるほど効果もあがるとは限らないのです。ある量を超えると効果が現れはじめたり、消えてしまったり、あるいは逆転してしまったりすることさえあるのです。この点は、特に栄養補助剤(サプリメント)の服用に際して注意が必要です。 また、欧米の研究だけにもとづく情報の場合には、日本人ではリスクやその意味合いが変わる可能性があります。たとえば、日本人男性では喫煙率が高かったり、肥満の割合が少なかったりという特徴があり、そのことを踏まえたうえで、日本人ではどうなのかを解釈する必要があります。 もうひとつ気をつけなくてはならないのは、特定のがんを予防するための生活習慣が必ずしも健康的とはいえないという点です。たとえば、食塩の摂取量を減らすと、胃がんリスクが下がります。しかし、そのためにもし食事の内容が変化してしまい、欧米並みに脂肪摂取量が増えてしまうと、心筋梗塞など別の致命的な生活習慣病リスクが上昇する可能性があります。がん予防のための予防戦略は、総合的な健康と固有の生活習慣との兼ね合いの中で、あらためてその位置づけを問い直さなくてはなりません。 現段階では、研究の進んだ欧米のデータからの情報が先行していますが、日本でも、がんをはじめとする生活習慣病予防のための厚生労働省研究班による「多目的コホート研究」(http://epi.ncc.go.jp/jphc/)という大規模で長期的な研究が実施されています。現在、がん予防のために有用であろう科学的根拠が蓄積されつつあります。
[] 科学的根拠に基づくがん予防
[引用サイト] http://www.ncc.go.jp/jp/kenshin/ganyobo.html
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Last Updated 2007/ 03/ 03/ 00時18分46秒
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